読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

猫尾製作所

あまりアテにしないでね

次元解析(其之参)

次元解析 物理学

今回は前回よりもさらに抽象的な物理量について解説いたします。

質量と重量(重さ)というのは、よく相互に混同される概念です。というよりは、日常生活ではこのふたつは同義としている場面は多いのです。しかし、このふたつの違いは中学校の理科でも教わる内容でもあります。読まれておられる方も「体重が60キログラムの人が、月に行ったら体重が10キログラムになる」なんていうことを学校で教わった経験はおそらくあるでしょう。

思ってみれば、質量というのも不思議なものです。これを書いている現在(2013年)の最新の科学ニュースでは、ヒッグス粒子が云々と話題になっております。これについては私も少なからず興味をそそる話題なのですが、とりあえず、今は極々初歩的な話題を取り扱っていますので、質量の本質とは、だとか、そこまでは立ち入りません。

質量とは英語で mass なのですが、重量は weight です。物理学では斜体の  m という記号で質量を表現することが多いのですが、やはりそれは mass の頭文字であるからです。SI単位での質量の単位は kg(キログラム)です。なぜ、グラムではなくキログラムなのかという疑問も自然に生まれるところですが、そこには歴史的な背景もあるようです。さて、「体重が60キログラム」という表現は日常生活ではともかく、物理学の見地では正しい表現とはいえません。「体質量が60キログラム」と言い換えれば、物理学的にも正しい表現となるのかもしれませんが、「体質量」という表現が実際に使われているかどうかはわかりません。

質量は宇宙のどこに行っても変化しないといわれます。学校の理科では「質量は天秤ばかりで測り、重量はバネばかりで測る」というようなことを教わります。病院やお風呂屋さんなど、最近では一般家庭にもありますが、ごく普通の体重計がもし月の上にあってなおかつ使えるならば、地球上で体重が60キロになる人は、月の上では10キロになってしまうでしょう。もちろん測定時の被験者の条件(宇宙服を着たままなら着たままで、など)は同じであるとします。しかし、シーソーがまた月の上にあるならば、60キロの米俵とちょうど釣り合うのは、地球上でも月の上でも同じです。しかし、その米俵をまた先程の体重計に載せれば、月の上では目盛りはやはり10キロを指してしまいます。

では、「質量」と「重量」の間にはどんな関係があるのでしょう。実をいいますと、そのふたつの量の橋渡しをしているのは「加速度」という物理量なのです。「加速度」については高等学校の物理の力学分野において最初に確認されるところのものです。

「加速度」とは単位時間あたりの速度の変化量と表現されるところのものです。これについて少し解説をいたします。吊り橋の上から谷底に向かって石を落とすことを考えます。空気抵抗を無視すれば、この石は毎秒あたり同じ割合で鉛直下向きの速度を増しながら落下していきます。この割合は地球上では毎秒ごとに 約 9.8 m/s となります。この値が地球上での「重力加速度」ということになります。この重力加速度は地球上では標高や緯度などのためにごく小さい差異はあるものの、だいたいどこでも 約 9.8 m/s/s となります。この単位  \mathrm{m/s/s} は「メートル毎秒毎秒」と読むのですが、 {\mathrm m/s^2} と表すことが多くであり、また  {\mathrm m \cdot s^{-2} といったような負の指数で表現することもあります。

この重力加速度は大きいほうがより大きく加速することになります。ですので、一見「物体の質量が重いほど重力加速度が大きくなる」ことも期待されます。しかし、ピサの斜塔の実験の伝説が示唆するところでは、地上での重力加速度はどこであれ、何に対してであれ一定(先ほど言いましたように場所による重力加速度の差異はごく小さいながらありますし、実際の物体には空気抵抗なども働きますが)ということになります。

しかし、地球上では 約 9.8 m/s^2 であるこの重力加速度。月面上ではその 約 1/6 である 約 1.6 m/s^2 となるのです。実は、月面上において、体重が 約 1/6 になる理由は重力加速度も 約 1/6 になるからなのです。つまりは重さは重力加速度に比例するものであり、かなり端折ることにはなるものの(重さ)とは(質量)と(重力加速度)の積、ということが知られています。これを一般化して、(物体に働く力の大きさ)を(物体の質量)と(物体の加速度)の積とされます。つまりは、物理学でいう重さとは力の大きさと同じ次元を持つところのものであるのです。

物理学を深く学んでいく過程では、さまざまな物理量が現れます。これらのうち力学に関していうならば、全てが(長さ)と(質量)と(時間)のべきに「因数分解」されるのです。ただ、電磁気学を学ぶときにこの三つに(電流)という「因数」が付加されますし、さらに熱力学等の研究の際には(温度)(光度)(物質量)という「因数」も付加されますが、これらの「因数」でもってあらゆる物理量が表現可能となるのです。

次回からはある程度進んだ数学的な手法も用いて、次元について説明していきます。