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猫尾製作所

あまりアテにしないでね

次元解析(其之弐)

物理学 次元解析

まずは、物理とは直接関係のないことから。

算数で習う事柄の中でもとくに重要となってくる考え方でもって、次元のもつ特徴のひとつを説明します。

あるスーパーマーケットの店先に、似たような格好のスライスチーズのパッケージが3種類並んでいます。どの製品も1枚の重量は同じですが、ひとつのパッケージに入っている枚数や価格は異なります。では、次の3種類の製品のうちどのスライスチーズを買うのがいちばんお得でしょうか?

A社製: 12枚入り で 240円
B社製: 16枚入り で 300円
C社製: 20枚入り で 380円

これは1枚あたりの価格を計算することで、どれがいちばんお得かがわかります。

A社製: 240 円 ÷ 12 枚 = 20 円/枚
B社製: 300 円 ÷ 16 枚 = 18.75 円/枚
C社製: 380 円 ÷ 20 枚 = 19 円/枚

1枚あたりではB社の製品がいちばんお得だと考えることができます。もっとも、実際には欲しい枚数や目的等に応じては他の製品を買うほうがお得という事もありえます。12枚だけ欲しいのならA社の製品を買うと無駄が残りませんが、20枚だけ欲しければC社の製品を買うのがいいでしょう。また、3種類のパッケージの個々の製品はそれぞれに微妙に異なった特徴を持っており、「私はA社のチーズがいちばん好きだ」とか「俺はB社のチーズはちょっと苦手だ」とか「C社のチーズはチーズトーストを作るのにもっとも適している」などといったような個人の主観性や製品の持つ固有の性質に関わることでニーズは異なるでしょう。しかし、計算上はB社の製品が枚数あたりでいちばん安価な価格で購入することができることが割り算によってわかるのです。

物理学でも次元を持つ量の多くが別の量のまた別の量による割り算によって得られます。例えば、速さ(速度)は 道のり(距離)の 時間 による割り算によって得られます。すこし進んだ段階の物理学では、微分という概念でもって瞬間的な速度を求めるのですが、初歩においては割り算だけで済むでしょう。

障害物や信号のない一直線の道を車で走っているとしましょう。道の脇には60メートル間隔で街路樹が植えられています。さて、ある短い時間のあいだに街路樹と街路樹の間隔を通過するのにかかった時間というのを考えます。それを助手席にいる人がストップウォッチで測っているのですが、あるときそれはちょうど4秒でした。運転席の手元の速度計が示している速さを見ればわかるとも考えられますが、この結果を用いて間隔の平均速度を求めることを考えます。

60メートル を 4秒 かかって進んだのでした。その倍の距離 120メートル を進むのには、その倍の時間 8秒 かかるでしょう。逆にその半分の距離 30メートル を進むのには、その半分の時間 2秒 かかるでしょう。つまりは「短い時間のあいだに車が進む距離は、進むのにかかった時間に比例する」という関係が想定されます。

ある量 y が、ある量 x に比例するとは、別の定数 a でもって y = ax と表現されるというのが中学校の数学で教わる内容です。それを変形した式 a = y/x によって、定数 a を割り算を行うことで求められるのでした。ひとまず、実際には違った微妙に意味合いを持つ、速度と速さ、あるいは距離と道のりということばを同一視しましょう。今回は距離を y, かかった時間を x とすると (速さ) = (道のり) ÷ (時間) という関係が成り立つのでした。そして、先程は (単価) = (価格) ÷ (個数) という関係を見たのでした。単価とは1枚あたりの価格ですね。ですので、速さも「1秒あたりの進む道のり」などと言い換えることもできます。

ですので、速さは 60メートル ÷ 4秒 = 15 メートル/秒 と求められます。物理学では メートル を m, 秒 を s という立体のアルファベットで表現することが多いので、その表現を借りるならば 15 m/s となります。しかし、自動車の速度計の表示単位は日本車の場合 km/h であり、日本では標識でも km/h で法定速度を表示しています。h とは hour の頭文字で 1時間、つまり 60分、あるいは 3600秒 に等しい時間の長さです。また、k はキロという接頭辞で1000倍を意味します。すなわち km は 1000メートル と等しい長さです。m/s と km/h は単位は違いますが、単位のもつ次元は同じです。共通する性質は「距離を時間で割った量」であることです。次元とはこういう場での共通する性質ともいえます。それらのあいだには定数倍の比例関係がなりたちます。それは「m/s で表現された速さの数値」にある決まった(無次元の)定数を乗じれば(つまりは決まった量の掛け算で)「km/h で表現される速さの数値」になるという意味合いです。では、具体的には何倍すれば数値変換できるのでしょう。

15 m/s で走っている車は 1時間、すなわち 3600s のあいだに(等速を保つとすれば) 15*3600 で 54000 m 進みます。1 km = 1000 m より 54000 m は 54 km です。つまり 15 m/s という量は 54 km/h と書いても等価なのです。この運動の時間中には運転席の速度計は 54 km/h のあたりを示しているはずですね。1 m/s に対して同じ変換を行うと 1時間で 3600 m = 3.6 km 進むので 3.6 km/h となります。「m/s で表現された速さの数値」を 3.6 倍すれば 「km/h で表現される速さの数値」となるのです。

m/s は 英語では "meter(s) per second" と表現されます。日本語では「秒速○メートル」あるいは「○メートル毎秒」です。先ほどの英語を直訳すれば「秒あたり○メートル」となるのです。同様に km/h は "kilometer(s) per hour", 「時速○キロメートル」, 「○キロメートル毎時」です。

英語圏では "kilometer(s) per hour" の各語の頭文字でもって "kph" で km/h を表現することが多いようです。"mph" という単位もあるのですが、これは "meter(s) per hour" ではなく "mile(s) per hour" を表すのが通常です。これは「時速○マイル」です。1 マイルは約 1.6 キロメートルです。(より厳密には 1マイル = 1609.344 メートル。1インチ = 2.54 センチメートルという定義よりその12倍の3倍の1760倍という一見奇妙な掛け算によりこうなります)ですので 1 mph は 約 1.6 kph ということになります。

アメリカの道路標識で 50 と書かれていたら法定速度は 50 mph = 約 80 kph となります。日本人がその道を 50 kph でのろのろと走っていれば後ろから煽られるでしょう。逆に日本の道路標識で 50 と書かれていたら法定速度はもちろん 50 kph。アメリカ車で 50 mph でその道を走っていれば、なんと 30 kph もオーバー。お巡りさんに切符を切られますね……。

あと、重要なこととして平均の速さと瞬間の速さは違うということもあります。160 km/h の豪速球を投げたからといえど、1時間もそんな速度を保つのは不可能ですから。もし、その速度を保てば 1時間後には 160 km の彼方へボールは飛んでいっていますね。野球のことは私はよく知りませんが。

小分けしたいと思うので、今回はこの辺にて。